+++ 母乳研究 +++

母乳の「乳児を守る力」に学んだ

母乳研究により見出された新たな母乳の免疫成分

オステオポンチン

オステオポンチンとは

細胞が分泌するサイトカイン*とよばれるたんぱく質のひとつで、オステオポンチンはヒトの体内の多くの組織に存在します。特に臍帯血や乳児の血漿に高濃度に含有され[1]、母乳中の細胞において最も多く遺伝子発現すると報告されています。

*サイトカインとは、インターフェロン、インターロイキン、成長因子などの物質の総称で、主に免疫細胞が分泌し、他の細胞に働きかける役割をもっています。

オステオポンチンの免疫機能

生後間もない乳児は、感染に抵抗する免疫機能が十分ではありません。最近の研究では、母乳には母親由来の免疫細胞が含まれ、生後間もない乳児の免疫機能を助ける働きがあると考えられています。母乳中の細胞が発現するサイトカイン関連遺伝子の中で、オステオポンチンが泌乳期を通して最も高発現するといわれています[2]。オステオポンチンは多彩な機能を持つと考えられていますが、特に乳児栄養における役割について代表的なもの[3]を紹介します。

免疫のバランスを調整する機能

これらTh1、Th2は互いに活性を制御しあいながら生体防御機構として働き[4]、 自己免疫疾患、感染症、アレルギー性疾患などの発症に関与すると考えられています[5, 6]

妊娠期の母体や新生児は、サイトカインバランスがTh1よりTh2に偏りますが、[7,8,9]。母乳に含まれるオステオポンチンはTh1の働きを強めTh2に偏ったバランスを調節すると考えられています [10]。このTh1応答の増強は、細胞内病原体の除去には必須であり、母乳に含まれるオステオポンチンは、Th1免疫応答を誘導することによって感染症から乳児を保護すると考えられています[3]。

感染を防御する機能

  • ウイルスは、宿主細胞のレセプターとの特異的接着により細胞内に侵入します。
  • 母乳に含まれるオステオポンチンは、ロタウイルスなどの侵入レセプターの一部と結合 することが報告されています。
  • ウイルスの標的細胞への結合阻害により、予防機能を果たす可能性も考えられています[10]。

更に、オステオポンチン含量を母乳に近づけたミルクで哺育された乳児では、発熱率が低下し母乳栄養児の発熱率に近づく[11]など、乳児の感染症を予防し免疫機能の発達に重要な役割を担っていることが実証されています。

免疫細胞の働きを助ける機能

オステオポンチンは体内に侵入してきた異物と結合し、異物を処理する免疫細胞がそれを取り込みやすくする機能を持っています[12]。

オステオポンチンの3つの免疫機能

オステオポンチンと粉ミルク

前述のようにオステオポンチンは、乳児にとって非常に重要な母乳の免疫成分です。しかしながら、オステオポンチンは牛乳には多くは含まれていません[3,13]。そのため牛乳をベースとする従来の粉ミルクには十分には含まれていませんでした。

オステオポンチンの悪影響?

オステオポンチンは、がんに関連するなど老化を促進させる物質との報告がありますが、いずれも健常な乳児において認められる現象とは異なります。また、乳中とがん細胞に由来するオステオポンチンはリン酸化などの構造や機能の面において、その性質は異なると考えられています[3]。したがって母乳に含まれるオステオポンチンは乳児のための大切な成分であると言えます。

「母乳中オステオポンチン」に関する国際共同研究[14]

オステオポンチンは児の免疫機能の発達に重要な役割を担っている成分です。しかしながら、母乳中のオステオポンチン含量を詳細に把握するための研究はほとんどありませんでした。
そこで、私たちは、日本、中国、韓国およびデンマークの計629名の母親より提供された母乳を対象に、オステオポンチン濃度を大規模に調査する多国間共同研究を実施しました。800検体を超えた多国間での母乳とOPNに関する共同研究は世界初の取り組みとなります。
その結果、母乳中のOPN濃度は、国によって異なり、産後日数の経過に伴い濃度が低下することが明らかになりました。

参考文献

  • 1 Schack L, Lange A, Kelsen J, et al. Considerable variation in the concentration of osteopontin in human milk, bovine milk, and infant formulas. Journal of Dairy Science. 2009;92(11):5378-5385.
  • 2 Nagatomo T, Ohga S, Takada H, et al. Microarray analysis of human milk cells: persistent high expression of osteopontin during the lactation period. Clinical & Experimental Immunology. 2004;138(1):47-53.
  • 3 Christensen B, Sorensen ES. Structure, function and nutritional potential of milk osteopontin. International Dairy Journal. 2016;57:1-6.
  • 5 Dolhain RJ, van der Heiden AN, ter Haar NT, et al. Shift toward T lymphocytes with a T helper 1 cytokine-secretion profile in the joints of patients with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 1996;39(12):1961-1969.
  • 6 Kon OM, Kay AB. T cells and chronic asthma. Int Arch Allergy Immunol. 1999;118(2-4):133-135.
  • 7 清水 優. 免疫性神経疾患の妊娠と出産update. 臨床神経学. 2012;52(11):878-881.
  • 8 松下 祥. 1. 妊娠と免疫(XV. 妊娠とアレルギー疾患,専門医のためのアレルギー学講座). アレルギー. 2014;63(1):1-5.
  • 9 坂本 龍, 森下 雅, 伊藤 浩. 細菌感染によるTh1/Th2バランスの修飾. 日本小児アレルギー学会誌. 2003;17(1):73-81.
  • 10 稲垣 瑞, 金丸 義. ロタウイルス下痢症に対する牛乳タンパク質の利用性. ミルクサイエンス. 2011;60(1):25-38.
  • 11 Lonnerdal B, Kvistgaard AS, Peerson JM, et al. Growth, Nutrition, and Cytokine Response of Breast-fed Infants and Infants Fed Formula With Added Bovine Osteopontin. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2016;62(4):650-657.
  • 12 Schack L, Stapulionis R, Christensen B, et al. Osteopontin enhances phagocytosis through a novel osteopontin receptor, the alphaXbeta2 integrin. J Immunol. 2009;182(11):6943-6950.
  • 13 Demmelmair H, Prell C, Timby N, et al. Benefits of Lactoferrin, Osteopontin and Milk Fat Globule Membranes for Infants. Nutrients.2017;9(8):1-22.
  • 14 Bruun S, Jacobsen LN, Ze X, et al. Osteopontin Levels in Human Milk vary Across Countries and within Lactation Period: Data from a Multicenter Study. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2018;67(2):250-258.